齋藤力

デッドストックのグレーバーズアイで仕立てるクラシックなスーツ

PROCESS OF ORDERING
お客様から頂戴したオーダーアイテムの素材選びから仕上がりまでの過程について、H.LESSER & SONS(Hレッサー&サンズ)のグレーバーズアイでオーダーを頂戴したグレーのツーピーススーツを一例にご説明をさせていただきます。
DORSOでスーツをオーダーいただいた場合のご注文からご納品までの流れ、お客様からのご要望やこだわり、私自身が洋服作りに対して大切にしていることについて触れていきます。

初回ご来店からご納品まで

今回ご紹介するオーダースーツは、2025年4月にWebサイトからお問い合わせを頂戴して店舗にお越しいただき、その際にグレーツーピーススーツをオーダーを頂戴致しました。
オーダーから1ヶ月後の5月末に仮縫いをさせていただき、約2.5ヶ月後の8月初めに完成したスーツをご納品させていただきました。

DORSOでは、初めてのオーダーのお客様には仮縫いをサービスでお薦めしております。
仮縫い付きの仕立てをお選びいただいた場合の通常納期は、ご注文から仮縫いまでが約1ヶ月、仮縫いから完成までが約2.5ヶ月、合計最短で約3.5ヶ月お時間を頂戴しております。
(納期については着用日が決まっている場合、予めご予定をお伝え頂けましたら通常納期よりも早く仕上がるようにスケジュール確認と調整をさせていただくことも可能です。またトランクショーでのご注文の場合、店舗や他都市トランクショーでの仮縫い・ご納品も柔軟に対応しておりますのでお気軽にお問い合わせください。)

生地選び

ビジネスシーンで使い勝手が良いグレーのスーツをリクエストいただきましたので、幅広い場面で着用していただける素材感と色味の生地をピックアップしてご提案させていただきました。
いくつか生地についてご説明をさせていただいた中で、"DORSO STOCK COLLECTION"でご用意していたH.LESSER & SONS(Hレッサー&サンズ)のグレーバーズアイが今回のお客様が期待されている汎用性の高いクラシックな印象に合うと対話の中から感じて私からご提案させていただきました。

*DORSO STOCK COLLECTIONとは、DORSOが現物生地を仕入れて在庫しているコレクションとなります。
バンチコレクションにも素晴らしい生地が多い中で敢えてDORSOが生地をコレクションする基準は、
①ヴィンテージ生地の一点物
②廃盤生地で今後入手ができなくなる物
③珍しい品質の生地でバンチにそもそも含まれていない物
④バンチコレクションでは魅力が伝わりにくいので現物でお薦めしたい生地
などの現物を厳選して仕入れることでお客様へのより良いご提案を目指しております。

Hレッサー&サンズは最高の原毛に拘りぬき生地を制作するという創業者の強い想いから品質の高い生地をコレクションしていることで多くの王侯貴族や洋服愛好家からの信頼を集め、その人気を裏付ける品質の高さからサヴィル・ロウ(Savile Row)や世界中の名門テーラーからの引き合いが途絶えることはありません。Hレッサー&サンズを扱っていることは、ビスポークテーラーの格の高さを示す基準と考える業界人も多く世界最高峰のメーカーと呼ばれるようになりました。

私はHレッサー&サンズのコレクションを長年見てきて今までに何度も仕立てた経験がありますので同社のクオリティーの高さについては理解しておりました。

今回はHレッサー&サンズの親会社の営業担当者が英国から日本に来ている際にHレッサー&サンズの廃盤コレクションを紹介していただきました。その中から特に素晴らしいと感じた数種類のグレー生地(バーズアイ・シャークスキン)をDORSOのストックコレクションとして仕入れました。

私がこの生地をストックコレクションに加えたいと思った理由は、先ずグレーの色味が素晴らしい事でした。グレーの色味のバリエーションは濃いものから薄いものまで豊富ですが、今回ストックに加えたグレーは私が個人的に最も使いやすいと考える色のトーンであり、バーズアイと呼ばれる丸い点のような織り柄が生地に表情を与えてミディアムグレーの色味に程良く深みを与えているところが魅力でした。バーズアイ柄のサイズ感もバリエーションは豊富なのですが、今回ご紹介するバーズアイは控えめなサイズ感で仕立て上がったスーツにクラシックな印象を与える柄と言えます。それらに加えて280/290gという生地のウエイト、素材の質感・風合いが日本の秋・冬・春の気候に適しているという点にも惹かれて仕入れることを決定しました。

これらの魅力に惹かれて仕入れたDORSO STOCK COLLECTIONのグレーバーズアイのスーツ生地が、今回のお客様のご期待に応える事ができると信じて自信を持ってお薦めさせていただきました。

サイズサンプルによるファーストチェック

生地を決定していただいた後は採寸と体型チェック、お客様のお好みについてのヒアリングを行わさせていただきます。
メジャーによる採寸を終えて、サイズごとにご用意しているサンプルを着用していただきます。

イージーオーダー、パターンオーダー、MTMをメインに展開されているお店の場合は、このようなサンプル(サイズゲージ)をベースにして体型補正を行うピン打ち(実際にサンプルにピンを打ち必要な補正を入れていく作業)をしながら調整を入れて完成まで仕上げるパターンが多いと思います。
この制作方法は多くのテーラーで採用されているという事実から見てもテーラーにとって有効的な手段と言えますし、お客様にとっても実際に仕上がる服のイメージが付きやすいと思います。
しかしながらDORSOではサンプル(サイズゲージ)によるピン打ちは行っておりません、今までDORSOでのオーダーを体験していただいたお客様はご存知かと思いますが私はピンを2本のみ(パンツの裾)しか打ちません。その理由は今までに色々な方法を試して経験してきたことに基づいているのですが、ピン打ちによる体型補正は立体になっている服による3次元的要素が強いアプローチなのですが、個人的には最初のデータ制作には製図上による2次元的なアプローチの方が全体のバランスと体型の調整に適していると考えているからです。
どんな洋服にも型紙(パターン)が存在するのですが、最も大切なことは型紙の特性を把握し、特にオーダースーツの場合はお客様それぞれのご体型に合わせた調整を2次元的アプローチによって型紙に反映させることです。
そのデータの基で仕上がった3次元/立体となった仮縫いで再度微調整を加えていく事で、フィッティングの精度を高めることができると信じております。
仮縫いについては次項でご紹介させていただきますので、先ずはサイズサンプル着用写真を数枚ご紹介致します。

今回のオーダーはツーピーススーツなので、パンツのサンプルを履いていただきチェックをさせていただきます。

パンツの丈やシルエットのお好みについてお客様に確認をしながら、脚の形や腰の位置・前後調整を私が目視・触診でデータを取らせていただきます。

日常生活の癖、スポーツによる体型の特徴、怪我などによる体型の変化等々、お客様の体型の特徴はそれぞれ違いますのでスーツの仕立てに於いて重要な調整を2次元に置き換えて見ていきます。

こちらは背中のフィッティングを確認するための写真です。

この写真を見たら、サイズサンプル状態で体型に合っていない箇所を皺の入り方から幾つも確認することができます。

既製品のスーツを選ばれる場合はこちらのサイズがお客様に適していると言えますが、肩や背中など局所的に合っていない箇所が幾つもある為に目視できる皺については何が理由で皺ができているのかを判断して3次元から2次元にする際に必要な調整を落とし込み、それらを反映させたデータを制作して仮縫いをご用意してさせていただきます。

仮縫いによるフィッティングチェック

DORSOでは初めてのオーダーのお客様には仮縫いをサービスでお薦めしております。
今回のお客様にも仮縫いの目的について、ご注文時にご説明をさせていただいた上で仮縫いによるフィッティングチェックの機会を頂戴致しました。

*仮縫いについて
関連記事「"オーダーした洋服の着心地"についてDORSOが思うこと

前述したサイズサンプルによるファーストチェックでの調整を型紙上に反映させてデータで制作した仮縫いを着用していただき、再度フィッティングのチェックをさせていただきます。

この仮縫い状態のスーツを着用していただくことで、お客様にとっては仕上がりのスーツのバランスについてイメージをしていただくことが可能になります。

仮縫いから完成までの補正可能範囲について、補正・調整が仮縫いの状態から必要な場合は幅広く行えるように設計した仮縫いとなっておりますのでお客様の理想とするバランスについてお聞きしながら私なりのご提案もさせていただき最適となるデータを完成に向けて改めて作成していきます。

完成

オーダーをいただいていたグレーのツーピーススーツが完成致しました。

今回のお客様にはご注文時に"DORSOハイクオリティーオプション"をお薦めさせていただき、ハイクオリティーオプションを採用した仕立てをお選びいただきました。
"DORSOハイクオリティーオプション"の内容
・肩イセ増量仕立て
・袖イセ増量仕立て
・本衿かけ仕立て
・ゴージーラインカーブ仕立て
・衿穴(フラワーホール)手かがり仕立て

ご納品と最終フィッティングチェック

仕上がったオーダースーツを着用していただき、先ずは着心地とお選びいただいた生地の風合い・グレーの色味を確認していただき、最終のフィッティングチェックをさせていただきました。

ここからは、サイズサンプル着用のファーストフィッティング時と最終フィッティング時の写真を比較しながら、今回のお客様に対して私が施した体型補正・調整をご紹介させていただきます。

①サイズサンプル着用時のファーストフィッティングの写真 (体型補正・調整前)

②仕上がったスーツのパンツを着用していただいた際の最終フィッティングの写真 (体型補正・調整後)

①と②の写真を比較したいただくことで、お客様の腰回りのフィッティングについての体型補正が施されていることが分かるかと思います。

お尻周りと太ももに必要なゆとり寸法を加えて、腰の上下・前後のバランスを整えることで身体に自然に馴染むフィッティングが実現できるように調整を加えさせていただきました。

③サイズサンプル着用時のファーストフィッティングの写真 (体型補正・調整前)

④仕上がったスーツのジャケットを着用していただいた際の最終フィッティングの写真 (体型補正・調整後)

⑤サイズサンプル着用時のファーストフィッティングの写真 (体型補正・調整前)

⑥仕上がったスーツのジャケットを着用していただいた際の最終フィッティングの写真 (体型補正・調整後)

③⑤(体型補正・調整前)と④⑥(体型補正・調整後)の写真を比較したいただくことで、お客様の背中回りのフィッティングについての体型補正が施されていることが分かるかと思います。

首から肩にかけての傾斜の左右差補正、肩甲骨周りのカバーしきれていない部分への適切なゆとりを加える為の補正、前方に出ている肩の局所的な補正、背幅の前後左右斜めに対するゆとり不足原因の模索と対応、これらの補正箇所について2次元と3次元での確認をした上で最適と思えるアプローチをそれぞれ施すことで肩回りと背中の重要な着心地面のクオリティー向上を図りました。

⑦サイズサンプル着用時のファーストフィッティングの写真 (体型補正・調整前)

⑧仕上がったスーツのジャケットを着用していただいた際の最終フィッティングの写真 (体型補正・調整後)

⑦(体型補正・調整前)と⑧(体型補正・調整後)の写真を比較したいただくことで、お客様の肩の左右差と胸部・腕回りのフィッティングについての体型補正が施されていることが分かるかと思います。

ジャケット前面の補正は前述したジャケット後面(背中・肩・首)の補正と関連しているので、全体を見ながらジャケット着用時に前身頃の収まりを適切な位置に設定するために首から肩先にかけての左右補正と肩から胸部にかけての距離の補正を施し、それらと同時に腕を動かしやすくするためのアームホールの設計を行いました。前身頃に関しては最も見た目の印象を左右するパーツとなりますので、デザイン・バランスについても体型補正と同時に2次元の型紙状態でデータを制作致しました。

今回のブログでは、DORSOで初めてオーダーをしていただいたお客様のグレーバーズアイのツーピーススーツをご紹介しながら、DORSO流オーダースーツの仕立て方について少し触れさせていただきました。
DORSOでのオーダーは、お客様との対話から全ては始まり、お客様それぞれの理想を模索し、最適と思えるスーツを作り上げていくために必要な採寸・フィッティングチェックを経て一つ一つを丁寧に仕立てさせていただきます。そして仕上がったスーツをお客様の生活の中で着ていただき、実際の動きに伴う着用感やバランス・仕様(裏地やポケット)・コーディネートについて感じられたことはできる限り共有させていただき、お客様の理想を把握し、お客様の生活に心地良さを与えることができる洋服作りを目指したいと思っております。

初めてのオーダーのお客様もリピーターのお客様も同様に、お客様のワードローブやコーディネートに携わらせていただく中で1着1着の仕立てを大切にし、お客様の期待にお応えできる仕立てを実現するために洋服作りに向き合い、お客様の期待を超える服作りを目指して、今後もDORSOは尽力致します。

齋藤力

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広島トランクショー
 2025年9月14日(日)〜 9月16日(火)

大阪トランクショー
 2025年10月2日(木)〜 10月5日(日)

札幌トランクショー
 2025年11月7日(金)〜 11月9日(日)

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